過去、秋の松茸の回が宇宙で、冬のカニもパーフェクトワールドだったため、主役級の食材がないと思われる春は一体どうするんだろうか。という少しの疑問を完全に払拭。春先の回も素晴らしかったので、春の訪問2回目です。
前回3月23日に伺ってからあまり期間が空いてないので「お料理そんなにガラッと変わらないですよ。かぶる料理もあるかもしれません。すみません。」ということでしたがこちらとしたら全然かぶっていいので「それも嬉しいです。」という回答していたのですが、全然かぶってないし、食材共通なものありますが調理法や味の添え方が違っていて全部新しく感じられました。
●新玉ねぎ
金沢市安原の荒川さんの新玉ねぎからスタート。神々しく輝く純白の玉ねぎ。つるんとしていて淡く澄んだ味わいで、そこはかとなく立ち上がる甘味に出汁が溶け合う。
●お椀 鮑
お吸い物は例によって鰹節を削るところからやってくれる命の出汁で。宇出津の立派な鮑を目の前でさばくのを拝見済み。柔らかく美味なのは言わずもがな、天国だ。能登島のフキの禅味で引きしめる。
●オコゼ
雪解け水を思わせるような美しい造り。1日熟成させることによってアミノ酸値が良い感じに。ウルイとウドを添えて。
●能登トラフグ
能登の天然トラフグに裏ごしした白子をかけて。なんだか白無垢みたいな美しさ。
●カタクリの白和え
春、山奥で人知れず密やかに咲き誇るカタクリ。根にパワーを溜め込み、花は繊細だけど生命力を秘める。その姿が脳裏に浮かびました。春の息吹を感じる。しみじみ泣ける味。
●のど黒
箸を入れるとジュワッと脂が溢れ出す。この美味しい脂が口の中にほとばしる。口の中から喉に落ちてゆき、口喉胃袋の全部でうまさを感じる。
●七尾の鳥貝
ヴィーナスが誕生しそうなくらいの、それは立派な鳥貝だった。金額にするとこれでけっこうするのではないだろうか。肉厚の鳥貝を備長炭で軽く炙って香ばしさを添える。
●新湊ホタルイカ
なんと今回は活ホタルイカ。目の前でピューピューと水を吐き出すほど元気。目と口を手際よく抜いて、素出汁で軽く茹でるとぷっくりぽんぽんに。氷見の菜の花に黄味酢。春の色がパッと目に鮮やか。
●ふぐ唐揚げ
ふぐの唐揚げは大好物だけど、良いふぐだからこその別格なうまさを教えてもらいました。おいしいエキスが飛び出す、なんてジューシーなんだ。ヒレ酒と共に。
●鰯つみれ
鰯のいい時期。このつみれ碗は、片折さんが修行時代よく作っていた思い出の一品。
●七尾鱒
七尾の鱒に今回はセリの出汁餡。出汁餡のまろみにセリの苦味がのる春の二重奏。ああ、おいしい。
●お食事
お米は氷見のコシヒカリ一等米。おかわりは卵黄をかけ、削りたての鰹節をはらりとのせてくれる。日本人が慣れ親しんだ、情のある味の洗練。うまい。
●胡麻豆腐
最後はきな粉がけの胡麻豆腐。
一刻一刻と移ろう春の刹那を、静かに静かに感じ取るような回でした。心くすぐられた。